7/20/2013

「台所改善の栞」昭和5年

今回は,アンティーク絵葉書をちょっとお休みして,昭和初期の資料を紹介します。

1930年(昭和5年)11月,埼玉県社会課が発行した「臺所改善の栞」です(全26ページ)。


私の母の実家は農家で,私が幼いころ(昭和30年代後半~昭和40年代初め)はまだ土間式の台所でした。
その記憶を辿ってみると,
・薄暗かった感じがするけど,朝は窓から日が入ってきて明るかったような気がする。(逆光の向うに祖母が食事の準備をしていたようなシーンが浮かんできます。)

・天井がすごく高くて,黒くて太い梁が走っていた。

・冬はすごく寒かった。板の間が冷え切っていて,靴下を履かないわけにはいかなかった。

・土間に面した板の間の丸い卓袱台でみんなでご飯を食べた。

・水を飲みに行くのに,下駄を履いていかなければならなかった。

・竃からはいつも鍋から湯気が出ていたような気もする…

この栞が発行された頃は,おそらく日本の多くの家が土間式だったのではないかと思います。

一日の多くの時間をそこで費やす主婦のため,台所を効率的・衛生的な台所に改造することは,結果的には経済性にも効果があるだけでなく,さらに主婦の健康にもよい,と書かれています。

本冊子冒頭の「はしがき」を紹介します。
はしがき

一、近時臺所改善の聲が高まり經濟、衞生、能率、等の各方面に亘り大いに研究せされて來たが概して一般家庭の臺所は今尚不完全のものが頗る多い

二、本冊子は一般の家庭を對照としたものであるが殊に農村に於ける臺所改善の急務である事を知らしめ且之が指針を明にし改善に志す人々の參考に供せんとするものである

三、本冊子の改善案は固より一の指針であるから之を參考として自家に適切な具體的工夫を廻らして貰いたい

四、臺所改善には幾分の經費を要するが改善の結果は間もなく之を取り返し得るのみならず、更に經濟、衞生、能率等の上に予想外の効果を擧げ家庭を明くするものであることは既に之を實行した各家庭に於て證明せらるゝ處である

昭和五年十一月
埼玉縣社會課

そして,本文の内容は…
一、本縣に於ける臺所の缺陥
二、臺所改善實行上の要點
 1.位置
 2.採光、通風
 3.天井
 4.廣さ
 5.給水、排水
 6.流し
 7.調理臺
 8.戸棚
 9.食卓
 10.竈
三、臺所改善組合設置の必要
 大里郡榛澤村臺所改善會規約
四、十段式改善法
五、臺所の構造(參考)
六、臺所設備に要する經費概算

五章の「台所の構造」では,具体的な改善例が示されています。
私の母の実家の台所は,こんな感じでした。


この図をよく見ると,水道はありません。そのかわり「水槽」があります。つまり,井戸から水を汲んでここに溜めておくのですね。

また,土間の片隅に「燃料置場」がありますので,おそらく煮物,焼き物には薪や石炭を使っていたのでしょう。

こういう冊子を見ると,祖母や母の時代と比べて私たちの時代はなんて便利で快適なのだろうとつくづくありがたく思います。

当時との一番の違いは,何なんでしょうか?
上下水道と安定したエネルギー(電気,ガス)を誰でも安く容易に使えることになったということでしょう。

今の生活からこれらがなくなってしまったり,足りなくなってしまったら,この冊子の時代に戻ってしまうということなんでしょうね。

0 件のコメント:

コメントを投稿