7/21/2013

株式会社南口商会商報(蚊帳号)/昭和12年

昭和12年に発行された今で言うカタログ販売通信販売の案内です。
これは,「蚊帳号」と書かれているので,蚊帳(懐かしい言葉です)の通信販売特集号のようです。

発行者は,奈良県生駒郡片桐という所にある卸問屋の株式会社南口商会というので,どこかの駅の南口(みなみぐち)にでも店を構えた会社なのかと思っていましたら,同封されている注文書に南口(ナンコ)とふりがなが振ってありました。

まずは,どんな資料がはいっているのかご紹介します。

全体の構成は,
①A4サイズくらいのカラーの厚紙を二つ折りにした表紙の間に,
②社長ご挨拶文と蚊帳のカタログ(裏面には会社概要や購入者への特典が記載),
③その他の商品のカタログ,それに注文書(ハガキ)からなっています。


①表紙

夏の海辺でビーチパラソルの下でバカンスを楽しむ水着姿の二人の女性のイラストです。
これを二つ折りにしてその間に以下のカタログや注文書が挟まっています。「蚊帳号」と書かれている通り,蚊帳を販売するのが目的の通信販売カタログですね。
この南口商会というのは,蚊帳の製造販売を業としている会社です。
裏側には「蚊帳号」発行に当たっての特別奉仕品などの紹介が書かれています。
・大増資記念特別奉仕売り出し

・常に最低価格を以って最優良品を提供し其製造販売高に於て本邦蚊帳界の首位を掌握し斯界をリードしつゝある我楠公蚊帳は…

・仝じく大楠公を商標とせる姉妹会社のテイチクレコードは今や吾国各方面の一流芸術家を殆ど網羅し…

・他社の壱円五拾銭盤をはるかに凌駕し而も価格は最低の壱円を以って臨み名実共に眞にレコード界のレコードを破りつゝある…

・この大飛躍大発展に依る増資を記念として世に定評ある弊社独特の左記特製の二品を犠牲的に五萬張を限り破格の値段を以って特別奉仕売り出しを敢行…

・代金は全部月賦とし毎月末迄に御払込被下度…
蚊帳の製造販売をしている会社がテイチクレコードと姉妹会社とは驚きです

②蚊帳のカタログ

南口商会社長である南口重太郎氏のご挨拶文です。
・皆様の御厚眷に撫育せられ吾大楠公印二大製品たる楠公蚊帳及テイチクレコードは共に駸々たる躍進を遂げ幸ひ今日の盛運に恵まれたるは…

・弊社はこの大発展に伴う増資を記念して一般暴騰を度外視し今期に限り昨年度通りにて一切値上げを不致…

・而も二重景品付き記念売出を敢行致しました…

・奈良地方御遊覧の際は御参考の為め御遠慮なく蚊帳工場及レコード工場御参観ください

株式会社南口商会
帝国蓄音器株式会社 社長 南口重太郎

南口重太郎氏をインターネットで調べると(Wikipedia「テイチクエンタテインメント」)
南口重太郎が大阪にスタンダード・レコードというレコード会社を設立。この会社はのちにテイチクの一工場となる。南口は忠臣楠木正成を崇拝しており、このとき「楠公印」のレーベルマークを商標登録、のちにテイチクでも使われる。

1931年(昭和6年)2月、吉川島次と南口重太郎が合資會社帝國蓄音器商會を設立。本社・工場を奈良県奈良市に、事務所・録音スタジオを川西市花屋敷においた。当時、吉川は現在の大和郡山市で、農業を営みながら蚊帳などの問屋をしており、副業として、この会社で蓄音器(ハードウェア)の販売を始めた。

さらに,
1934年(昭和9年)2月、株式会社に改組し、帝國蓄音器株式會社と改めた。本社を奈良県奈良市に移した。1枚1円の緑盤(15000番台)を発売。

1934年(昭和9年)、日本コロムビアから作曲家の古賀政男を抜擢して重役に任用し、同社から録音技師と社員も呼び寄せた。東京進出に際して文芸部を銀座に、録音スタジオを杉並堀之内に置く。文芸部は、後に録音スタジオの地へ移転。楠木繁夫、松島詩子を専属として主力歌手とし、年末にはディック・ミネも専属とした。

1936年(昭和11年) 藤山一郎、美ち奴が入社。本社を奈良市肘塚町へ移転し、工場も設備拡大を行う。

蚊帳とレコードの関係が少しわかってきました。
上の①で「今や吾国各方面の一流芸術家を殆ど網羅し…」とありましたが,昭和12年の段階では既に有名な歌手をずいぶん専属としていたのですね。

ところで,その専属歌手の美ち奴さんですが,どんな方なのかとネットで検索してみました。
著作権の問題など詳しくわかりませんので,お顔を拝見できるアドレスをご紹介しておきます。

http://blog.goo.ne.jp/hakodatenoshito0303/e/a68fbe5a076d001fc28893d293e18f9a

http://www.matsuyomi.co.jp/showashi/showashi_BN_024.html

どちらも同じ写真ですが,上の①の表紙の水着姿の左の女性に似ているような気がしませんか?
私は,前年にテイチクに入社されたばかりの美ち奴さんを姉妹会社の蚊帳の広告に使ったのではないかな,という気がしてなりません

さて,その蚊帳の価格表です。部屋の大きさが十畳用のものを見てみますと,
・綿蚊帳「日之出印」値段本位 2円34銭
・本麻飛切上等生地「初風印」上部純白下ハ水色染裾ボカシ高級優美御客用 13円10銭
ということで値段本位の一番安いのと一番高級品では5.6倍も違います。蚊から身を守るという機能は変わらないのですけどね。

さて,②の裏側には,工場全景,発送作業風景,工場での製造風景(ミシンで蚊帳を縫っている風景)などの写真とともに会社概要が説明されています。


なお,「弊社商報値段より安価の蚊帳を売る他店の商報がありましたら其商報並に商店名生地見本を御送付下さい 他店の値段より二割値引の上御用命に応じます。」ということも書かれています。
最近の大型家電販売店のチラシではよく見かけますが,昭和の初めからこういうサービスがあったのですね。

なお,このキャンペーンには景品があります。

・美麗なる手帳及吊手を景品として添付し尚左記の通り抽選を以って景品を差上ます。
・御勧誘の方に対する景品:30円以上→安全剃刀1個,150円以上→テイチクレコード10枚,300円以上→電気蓄音器1個
・御購入者に対する規定:蚊帳一張り御買上毎に抽選券1枚。景品は1等大型電気蓄電器800台,外れても美麗なる手帳と蚊帳吊手

テイチクの看板商品である電気蓄音器を惜しげもなく800台(市価50円),すべての景品の市価を合計すると,増資金額に匹敵するほどの大盤振る舞いです。

③その他のカタログ
記載されている商品としては,まずは「蓄音器」。これも「大増資記念」で,やっぱり景品がついています。「レコードの針一千本」「専属芸術家サイン入り手拭一筋」「テイチクレコード六枚」…。


その他,南口商会という商社としての立場で販売しているものだと思いますが,「新装を誇る夏の背広服 スマートで而も気品ある1937年型」,「夏は白靴!! 近代的万人向紳士用」,この他,蒲団,蒲団袋,カバン,碁盤と碁石,袴,腹巻,シャツ・ステテコ,紳士向化粧ケースセット(石鹸入れ,歯磨粉,歯ブラシ,鏡,櫛,ポマード,クリーム附),ナショナル電気アイロン,片手バリカン(フケブラシ,耳掃除具付),精工舎腕時計


テイチクレコード関係の方,
こんな資料が出て参りました。
社の資料として御必要でしたらご連絡ください。お譲りします。
私が持っているよりは,きちんと保存していただける方に管理していただいた方がよろしいと思いますので…。

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